飲み物が変えた、器のかたち。
茶、コーヒー、チョコレートと中国磁器。

17世紀のヨーロッパに、それまで馴染みの薄かった飲み物が広まり始めます。
茶、コーヒー、チョコレート。
中国から伝わった茶。中東を経由して広まったコーヒー。そして、アメリカ大陸からスペインを経て伝わったチョコレート。それぞれ異なる土地から届いた飲み物は、ヨーロッパの暮らしに新しい習慣を生み出しました。
そして、その変化に深く関わったのが、中国から輸入されていた磁器でした。
憧れの中国磁器。
当時のヨーロッパでは、中国磁器は高価な輸入品でした。白く、硬く、薄く、滑らかな磁器は、王侯貴族や富裕層にとって憧れの存在。とりわけ茶を飲むための小さな碗は、中国の喫茶文化とともにヨーロッパへ渡りました。
しかし、ヨーロッパの人々は、中国の飲み方をそのまま受け入れたわけではありません。新しい飲み物は、それぞれの土地の暮らしや嗜好に合わせて変化していきます。それに伴い、器にも新しい役割が求められるようになりました。
中国にはなかった、コーヒーポット。
コーヒーは、ヨーロッパに独自の器を生み出しました。興味深いのは、中国の職人たちが、ヨーロッパ向けにコーヒーポットを製造していたことです。ニューヨークのメトロポリタン美術館には、1710年頃に中国で製造された輸出用の磁器製コーヒーポットが紹介されています。
その形の手本になったのは、オランダの陶器製コーヒーポット。さらにその原型をたどると、銀製のポットに行き着きます。つまり、ヨーロッパの銀器をもとにした形が、中国で磁器としてつくられ、再びヨーロッパへ渡っていたのです。
チョコレートのための、特別な器。
現在では固形のお菓子として親しまれるチョコレートも、ヨーロッパに伝わった当初は飲み物でした。
そして、その飲み方には特別な道具が必要でした。当時の飲用チョコレートは、材料をよく混ぜ、泡立てて飲むものでした。
そのため、チョコレートポットには、蓋に小さな穴が設けられ、そこから攪拌棒を差し込めるものがありました。
飲み物のつくり方が、器の構造を決めていたのです。さらに18世紀には、中国でヨーロッパ向けのチョコレートカップも製造されました。取引記録には、持ち手の形を指定するため、中国へ図案を送った例も残されています。
茶碗から、ティーカップへ。
中国から伝わった茶碗は、当初、ヨーロッパでも持ち手のない形で使われていました。しかし、茶を飲む習慣が広がるにつれ、器は変化していきます。
持ち手のついたカップ。
ソーサー。
砂糖入れ。
ミルク入れ。
中国の茶器を手本にしながら、ヨーロッパ独自の飲み方に合わせた道具が加わりました。18世紀には、こうした器を組み合わせたティーセットが発達します。茶を飲むことは、飲み物を楽しむだけでなく、人を招き、会話を交わす社交の時間にもなっていきました。
飲み物が、器を変えていく。
茶、コーヒー、チョコレート。
それぞれ異なる土地で生まれ、異なる道をたどってヨーロッパへ届いた飲み物。その普及は、新しい器の需要を生み出しました。
一方、中国の職人たちは、遠く離れたヨーロッパの食習慣に合わせて磁器をつくるようになります。
やがてヨーロッパでも磁器の製造が始まり、飲み物ごとに異なる器や、統一されたセットが発達していきました。
器は、飲み物を入れるための道具です。けれど、その形を見れば、何を飲み、どのように楽しみ、誰と時間を過ごしていたのかが見えてきます。新しい飲み物が器を変え、新しい器が飲む時間を豊かにしていく。
一杯の飲み物と、その器の歴史にも、世界を行き交った文化と技術の交流が刻まれています。



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