皿の縁(リム)に残る、食卓の歴史。
私たちが普段使っている西洋の皿を見ると、多くのものに「リム」があります。
料理を盛る中央の部分を囲む、平らな縁。あまりにも見慣れた形なので、普段その存在を意識することはあまりありません。

皿には、なぜリムがあるのでしょうか。
西洋の食器の歴史を遡ると、皿の形は、食事の方法とともに変化してきたことがわかります。
中世ヨーロッパでは、「トレンチャー」と呼ばれるパンや木の板などが、料理を受けるために使われていました。

やがて16世紀頃になると、木やピューター、銀などでつくられた個人用の皿が広く使われるようになります。
この頃にはすでに、料理を盛る中央部分と、その周囲を囲むリムを持つ皿がつくられていました。
リムは、皿を持ったり扱ったりするときの縁となり、汁気のある料理やソースを中央に収める境界にもなります。
16世紀から17世紀には、幅の広いリムを持つ皿が流行し、その後には細いリムが現れるなど、リムの幅や形そのものにも時代ごとの変化が見られます。
そして18世紀。
フランスを中心に、食卓そのものが大きく発達していきます。
当時の王侯貴族や上流階級の食卓では、「サービス・ア・ラ・フランセーズ」と呼ばれる食事形式が広まりました。
一つのコースに何種類もの料理を用意し、それらをテーブルの上に左右対称に配置する。
客は自分の近くに置かれた大皿などから料理を取り分け、自分の皿で食べます。
料理だけでなく、皿や銀器、燭台、装飾品なども含め、食卓全体がひとつの景色として構成されていました。

食事は空腹を満たすだけのものではありません。
誰を招き、どんな料理を出し、どんな器を使うのか。
食卓は、その家の富や家柄、教養、美意識を示す場所でもありました。
そのため、銀器には家の紋章やモノグラムが刻まれ、磁器のリムには花や鳥、風景、金彩などの装飾が施されるようになります。
料理を盛れば隠れてしまう皿の中央に対して、リムは食事中も見える場所です。
そのため、その家の格式や美意識を表現する格好の場所でもありました。
フランスを代表するセーヴル磁器では、王侯貴族のために、皿やスープ鉢、ソース入れなどからなる豪華な一揃いの食器がつくられ、リムにも華やかな装飾が施されました。
つまりリムは、料理を受け止めるための構造であると同時に、食卓を飾り、その持ち主の美意識を表現する場所にもなっていったのです。

19世紀になると、食事のサービス方法にも変化が起こります。
それまでのフランス式では、一つのコースの料理をテーブルの上に並べ、客がそこから料理を取り分けていました。
それに対して広がっていったのが、「サービス・ア・ラ・リュス」と呼ばれる方法です。
料理は順番に運ばれ、一つの料理を食べ終えると、次の料理が提供されます。食卓全体に料理を並べる形式から、料理を一つずつ味わう形式へ。レストラン文化の発達とともに、「一皿」という単位も次第に存在感を増していきます。
そして20世紀後半、フランス料理には「ヌーベル・キュイジーヌ」と呼ばれる新しい潮流が生まれます。
素材の持ち味を生かし、料理を軽くし、料理人自身の創造性を重視する考え方が広がるなかで、料理を皿の上でどう見せるかという盛り付けにも、新しい表現が見られるようになります。
料理を中央に盛り、周囲に広く余白を残す。
ソースを皿の上に描くように配置する。
料理を中心からずらし、皿全体を使って構成する。
料理人にとって、皿は単に料理を載せるための器ではなく、一皿を構成するための空間としても使われるようになっていきました。現代のレストランでも、リムのある皿は数多く使われています。
料理を中央に盛り、周囲に広く余白を残したり、リムを含めて一皿の構成を考えたりと、その使われ方もさまざまです。リムは、料理を受け止めるための構造として使われ、時代によっては紋章や金彩などを施す装飾の場所にもなりました。
そして現在も、料理を盛る中央部分を囲む、皿を構成する重要な要素のひとつです。



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